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『Xmas Night』



――あなたはサンタクロースを信じますか?――

 男は窓ガラスに姿を映し身だしなみをチェックする。この日の為にあつらえた赤い上着、揃いのズボンと三角帽子、クリスマスにはお馴染みの服装はふくよかな彼によく似合っていた。白い口ひげを撫で、彼は満足げに頷くとピンクのリボンがかけられた包みを手に少女の部屋にそっと入っていった。ベッドからは小さな寝息が聞こえている。少女を起こさぬようそっと近付き、寝顔に思わず微笑する。枕元にそっとプレゼントを置いたその時、ふいに少女は目を覚ました。
「……誰?」
「ッ!? エリちゃん、Merry X'mas!」
慌てふためく男をよそに少女は寝ぼけ眼のまま口を開く。
「パパ……。そんなかっこで何してんの? あ、プレゼント? ありがとう。そこ置いといて。」
それだけ言うと少女はまたパタリと眠り込んでしまった。ふぅ、と息をつき男はそっと部屋を出る。外には雪がちらつき始めていた。男はやれやれと首を振る。
「最近の子供は夢がなくていかんな。何故大人は『サンタクロースの正体は父親だ』等と教えるのだろう。」
ぶつぶつ言いながら男は物陰に隠したソリに乗り込む。2頭のトナカイが、その愚痴は聞き飽きたと言いたげに蹄を鳴らす。
「あぁ、すまない。次へ急ぐとするか。」
男は手綱を握りトナカイに合図を送る。

雪の舞うクリスマスの夜空を、トナカイの牽くソリが滑るように駆け抜けていく−


                    END

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