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『まだ見ぬ世界〜恋する少年の誓い〜』

8000hitキリリク小説 〜For:PRISHE様〜

「ねぇ、村の外ってどんなんなんだろう?」
村にある広い池に足を浸しながらユリアは皆を振り返った。
「パパ達は怖〜い魔物がいっぱいいる危険な所だって言うし、お兄ちゃんはつまんない所だって言うけど、本当はどうなんだろう?」
「ユリアさんは、外に出てみたいんですか?」
不安そうなアルファの言葉にユリアは満面の笑みを浮かべる。
「うん! だって面白そうだもん!」
その言葉にルキアは苦笑する。
「ユリアが外へ出たらあっという間に迷子だよね。村の中でも迷子になってるんだから。」
「大丈夫だよぉ。」
頬を膨らませたユリアに笑いながら、アルファはそっとルキアの横顔を見つめる。堅牢な石塀と強固な結界魔法で守られたこの村。子ども達は魔物が出て危険だからと外へ出る事を許されていない。そんな危険な世界にルキアも興味を持っているんだろうかと。
……でもルキアさんなら僕なんかよりずっと強いから、大丈夫かもしれないですね。……
剣技を学ぶルキアは幼いながら頭角を現し始めていた。アルファは、自分の手を見つめ溜め息をつく。ルキアは伯父のウィリオに憧れていて、事あるごとに嬉しそうにウィリオとのやり取りを話している。ルキアはウィリオのような人が好きなのだと思うと、真逆な自分の容姿や性格に肩を落とさずにはいられなかった。そんなアルファをよそにルキアは頬を染めながら口を開く。
「大きくなってもっと強くなったら、ウィリオ伯父さんと一緒に冒険するの!」
「私も大きくなったらパパやお兄ちゃんと冒険するー!」
「それなら魔法の特訓嫌がってちゃダメだよぉ。」
「だってぇ。お兄ちゃん怖いんだもん。」
笑い合うルキア達と裏腹にアルファはますます落ち込んでいた。

ある日。物置小屋の掃除を終えたアルファは、神殿前の舞台でルキアとケインが剣舞の練習をしているのをそっと見つめていた。村の祭りでは、毎年子ども達の中から選ばれた巫女と剣士が舞を披露する事になっている。今年の巫女役はユリア、剣士役にはルキアとケインが選ばれていた。ユリアの姿が見えないが、どうやらサボってしまったらしい。レミンとイレーヌの指導の下、二人は息の合った動きを見せる。舞にはストーリーがあり、巫女を攫おうとする闇の剣士を光の剣士が守り戦うというものだった。アルファは木陰に隠れて一心にルキアを見つめる。しなやかに伸びる手足、軽やかな動き、揺れる黒髪、凛とした表情、どれもがアルファを惹き付けた。やがて戦いのシーンになり、2人の手にした儀式用の剣がぶつかり合い澄んだ音を立てる。やがてケインの剣がルキアを制し、ルキアは倒れるような姿勢で舞台から退場する。その姿にアルファは息を呑んだ。
……ルキアさんが悪役だなんて……。
配役を知らなかったアルファは悲しい目で舞台を見つめる。その時、舞いを終えてルキアを労っていたケインと目が合った。
「アルファじゃないか。そんなとこで見てないでこっちへ来いよ。」
慌ててアルファは首を振り叫ぶ。
「い、いえ、いいんです! 邪魔しちゃってごめんなさい!」
脱兎のごとく走り去ったアルファの後姿にケインとルキアは首を傾げる。
「どうしたんだ、あいつ?」
「全然邪魔なんかじゃないのに。」
2人の言葉にレミンとイレーヌは微笑みを浮かべた。
「2人とももう少し大人になったらわかりますよ。」
「アルファったら可愛いわね。」
レミン達の言葉の意味がわからず、ルキアとケインは不思議そうな顔を見合わせていた。

舞の練習を終えるとルキアはアルファを探す。練習をずっと見ていたアルファに感想を聞きたいと思ったからだ。家の前で妹のチロルの遊び相手をしているアルファを見つけ呼びかける。
「アルファ〜!」
「ル、ルキアさん!?」
駆け寄って来たルキアと頬を高潮させるアルファを前に、チロルはにやにやしながらアルファを見上げた。
「わたし、お邪魔みたいだからお部屋に行ってるね〜。」
「な、何を言ってるんですか!」
「ルキア、お兄ちゃんをよろしくお願いします!」
「へっ?」
ワケがわからず困惑するルキアをよそにチロルは「お兄ちゃん、頑張ってね」と笑顔で手を振り家に入って行く。ルキアはチロルの入って行った扉と真っ赤な顔をしているアルファを交互に見つめ首を傾げる。
「何かあったの?」
「い、いえ、何でもないんです!」
ぶんぶんと勢いよく首を振るアルファに「それならいいんだけど」と微笑みルキアはアルファを見つめた。
「そうそう、聞きたい事があるんだ。アルファ、今日の舞の練習ずっと見ててくれてたでしょ? どうだった? 上手く踊れてたかな?」
真っ直ぐに見つめられて口から心臓が飛び出しそうになりながらも、アルファはルキアを見つめ返す。
「は、はい! とても上手で綺麗でした!」
その言葉にルキアはほっとしたように笑みを浮かべる。
「良かったぁ。アルファがそう言ってくれるなら間違いないね。ウィリオ伯父さんにみっともないとこ見せられないもん。」
無邪気に笑うルキアにアルファは思わず俯く。だが、ルキアは次の瞬間悲しげに表情を曇らせた。
「あのね、大事な舞の剣士役に選ばれたのは凄く嬉しいの。でも本当はね、光の剣士役やりたかったんだ。」
はっとしてルキアを見つめ返したアルファにルキアは小さく首を振り笑ってみせた。
「でもケインの方が強いし、仕方ないよね。もっと強くなって、来年こそは光の剣士役射止めるんだ。」
微笑むルキアにアルファはどきどきしながら必死に口を開く。
「ルキアさんなら、きっと、光の剣士になれますよ。」
「うん、ありがとう。」
アルファの言葉にルキアは相好を崩す。
「アルファの言葉聞いたら安心したよ。ありがとね。」
じゃあね、と手を振り走り去っていくルキアの後姿を見つめ、アルファは自分も強くなろうと、剣技は出来ないけれど得意とする白魔法の技術をもっと磨いて、ルキアを守れるような強い男になろうと誓う。ルキアが振り向いてくれるような強さを身に付けようとひっそりと拳を握った。
……僕達も村の外に出るようになったら、ウィリオさんじゃなく僕が魔物からルキアさんを守りたい!……
その強さの資質はすでに持っている事にアルファ自身が気付くのはもう少し先の話である。そしてアルファの誓いは思わぬ形で果たされる事になるのを、彼はまだ知る由もない――


                END


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