短編の間へ /翠玉館玄関へ
『Genuine hearts』
カズヤは学校が終わると急いでいつもの広場へ向かう。そこには既にいつものメンバーが集まっていた。
「こんちー!」
「遅かったじゃん」
「ちょっとな」
いつもは皆で学校の愚痴やら昨日のテレビの話、流行りのゲームの話で盛り上がるのだが、カズヤは集まっている仲間の中で1番信頼出来る人物の姿を探し声をかける。
「ヤス、ちょっといいか?」
「何?」
「いや、ここじゃちょっと」
「じゃあオレんとこ来るか?」
「頼むわ」
ヤスの部屋へ移動するとカズヤは言葉を選びながら話を切り出した。
「ヤスってさ、いつも来てるサクラちゃんの事知ってるって言ってたよな?」
「あぁ」
「サクラちゃんって彼氏いるのかな?」
「え?お前もしかして?」
「俺サクラちゃんの事好きみたいなんだ」
「あのさ、カズヤ」
「音楽の趣味とかすげー合うしさ、話してて楽しいんだよな」
「聞けって」
「広場行くとついサクラちゃんの姿探しちゃうんだ、これってやっぱ恋だろ?」
「あいつ男だぜ?」
「はっ?」
打ち込んだ文字と同じ言葉を同時に発し、カズヤはキーボードを打つ手を止めた。信じられない思いでヤスが打った文字を眺める。ふきだしの文字は消えているが、表示したチャットログには間違いなく「あいつ男だぜ」という文が打たれていた。画面中央にヤスのアバターが「おーい聞いてるか?」と呼びかけているのが見える。慌ててカズヤは手を動かす。
「マジかよ?」
「マジマジ」
「ネカマかよ。すげーショックなんだけど」
「いや、悪気は無いと思うぜ」
「でも俺騙されてんだぜ?ひでーよ、顔見えねーからってさぁ」
「けどさぁ、リアルでも騙し合いとか裏切りとかザラにあるだろ」
黙ってしまったカズヤにヤスは言葉を続ける。
「騙されたっつったって別に有料アイテムがっぽり貢がされたとかいうわけじゃねえんだろ?」
「そうだけどさ」
「サクラと話してて楽しかったんだろ?」
「ああ」
「会ってもいないのに好きになっちまうくらい心開いたんだろ?」
「女だと思ってたし」
「でもここにいる女の子皆にそんな心開いたりしないだろ?」
「そりゃそーだ」
「サクラにだったら心開いてもいいと思ったんだろ?」
「うん」
「だったらさ、サクラと交わした言葉は本物だったんだよ。」
「どういう意味だよ?」
「上辺だけの言葉とか騙してやろうって悪意を秘めた言葉だったら、ネットの文字だけのやり取りでも分かるもんだと思うぞ?」
はっとして再び手を止めたカズヤにヤスは熱心に話す。
「実際ネカマやって有料アイテム貢がせてる奴たくさんいるぜ?オレはリアルのあいつ知ってるけど、あいつはそんな奴じゃない。」
サクラとチャットで交わした会話の数々を思い返しカズヤは頷く。
「そうだな」
「そろそろサクラもログインする頃じゃん?呼んでみるか?」
「頼むわ」
ヤスのアバターが姿を消し、暫くしてヤスとサクラの2人のアバターが姿を現した。
「悪いな、バラしちまって」
「いや、いいよ、悪いのは僕だし。ごめんなカズヤ。」
「気にすんなよ。それにしても演技派だな、完璧に騙されたぞ」
「ごめん」
「いいって。サクラと話してると楽しいし。」
「僕が男だって分かっても友達でいてくれるのか?」
「分かりきった事聞くなよ」
「ありがとう」
「でもなんでわざわざ女を演じてるんだ?」
「ただの好奇心っつうか変身願望ってやつ?でもこういうサイトで女の子が楽しむのって大変だな」
「何で?」
「絡んだ事もないのに「ケータイ番号教えて」だの「メアド交換して」だのうるさい男がいっぱいでウザイ」
「なるほどな」
「そういう奴らってサクラが男だとわかったら絡まなくなるんだろうな」
「うわーさみしい連中!」
「カズヤはいい奴だ」
「そうだろー?」
「じゃあもしもオレが女で、「カズヤの事が好き」って言ったらどうする?」
「有り得そうでこわいな」
「ふっふっふっ」
「何だよサクラその意味深な笑いは?」
「でもカズヤがオレを恋愛相談の相手に選んでくれたの嬉しかったぞ」
「なんかヤスは口固そうだったし」
「バーチャルでも信頼関係は築けるんだよな」
「そうそう、本物は触れられなくても温かいってわかるんだ」
「お、ヤスいい事言うじゃん」
「今日からオレを「詩人のヤス」と呼んでくれ」
「何だそりゃ」
画面の前でカズヤは声を上げて笑う。ネットの向こうでヤスもサクラも同じように笑っているのを確かに感じた。
END
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