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『Sweet White day』

6543hitキリリク小説 〜for:みく様〜


男性客で賑わうデパートのホワイトデーコーナーで、進藤雪人はため息を吐いていた。先月のバレンタインデーに片思い中のクラスメイト・杉山恭子から、手作りのチョコレートを貰えたのである。だが喜びもつかの間、クラス中の男子が恭子からチョコを貰っている事を知り落胆したのだった。それでも「Happy Valentine!  これからもよろしくね→」と書かれた手書きのメッセージカードを肌身離さず持ち歩いている自分が何だか悲しくなる。そしてクラスの女子達が「友チョコ」と称して女子同士でもチョコの交換をしているのを見て、女ってわからないと雪人は首を振った。しかも「ホワイトデーは3倍返しが当たり前」などという声も聞こえる。
「手作りチョコの3倍って何だよ……。」
売り場には雪人も名前を聞いた事がある有名な高級菓子店のショーケースが並んでいる。ケーキにクッキーにチョコレート、こんなに並んでいると一体どれを選んでいいやらわからなくなる。悩んで売り場を何度もうろうろした末、可愛らしくラッピングされたクッキーの小箱を1つ選ぶ。それからアクセサリー売り場へと足を向けた。ここもホワイトデーの飾り付けがされ華やかな雰囲気が漂っている。ケース内の値札を見比べ今日何度目かのため息を吐いた。しかしここで他の男子と差をつけられれば、その他大勢の存在から一歩抜け出せるかもしれないと思うと手は抜けない。財布の中身と相談しながら雪人はシルバーのブレスレットを選んだ。ラッピングが終わるのを待ちながら雪人は恭子が喜んでくれるようにと願っていた。

ホワイトデー当日。
恭子が一人になった時にプレゼントを渡したいと考えていたが、休み時間にはお返しを渡す男子が恭子の周りに集まっていてとても渡せる状況ではなかった。男子達の中には、自分のように恭子に思いを伝えようとしている奴がいるかもしれないと思うと気が気ではない。今日中に渡せるのかと不安になりながら、雪人はタイミングを見計らっていた。放課後になり部活が終わる頃、ようやく教室で一人帰り支度をする恭子の姿を見つけ雪人は駆け寄った。
「杉本!」
「進藤じゃない。どうしたの?」
「あ、あのさ。これ……。」
朝からずっと持ち歩いていたためしわが寄ってしまった小さな紙袋を差し出す。雪人は真っ赤な顔で言葉を続けた。
「ホワイトデーのお返しだ。杉本にとっては、俺は義理チョコの中のその他大勢なのかもしれねぇけど、俺はお前の事が……。」
好きなんだ、と続けようとした瞬間、恭子の声が響いた。
「義理チョコぉ? 進藤、あんたカードの裏見てないの?」
「はっ? カードの裏?」
何の事だと慌てて胸ポケットからカードを取り出す。その様子に恭子は小さく微笑んだ。
「それ持ち歩いてくれてるんだ。」
焦ってカードを仕舞おうとする雪人から恭子はカードをそっと取り上げる。台紙がついた二枚綴りになっているカードの、メッセージが書かれている方の紙を裏返してみせた。そこには『進藤の事が好き。私と付き合って下さい!』と書かれてあった。
「えぇ!? 何だよこれ!?」
頭が真っ白になる雪人を恭子は軽く睨む。
「返事くれないから私てっきり振られたんだと思ったんだから!」
パニックになっている雪人に恭子は言葉を続ける。
「ちゃんと裏も見るようにって矢印ひいてあったでしょう!」
雪人はカードを見返す。『これからもよろしくね』の後に確かに矢印がひいてある。
「気付かねぇよこんなの!」
「気付きなさいよぉ!」
間髪入れずに言い返すと恭子はふっと微笑んだ。手にした紙袋を嬉しそうにかざす。
「まぁいいわ。これに免じて許してあげる。開けてもいい?」
「あぁ。」
赤面しながらわざとぶっきらぼうに雪人は頷く。丁寧にラッピングを開ける恭子の横顔に「やっぱりこいつ可愛い」、と思う。
「わぁ、私このお店のクッキー大好きなんだ。進藤よく知ってたね。こっちは……うわぁ、可愛い! こんなのほしかったんだ。いいの? もらっちゃって。高いでしょ、ここのアクセ。」
嬉しそうにブレスレットを見つめる恭子に雪人は笑う。
「今月のバイト代吹っ飛んだぞ。大事にしろよな。」
「散々焦らして女心をもてあそんだんだから、これくらいしてもらわないとね。」
おどけた口調で笑い恭子はブレスレットを左腕にはめる。
「ありがとう、進藤。大事にするよ。」
クッキーを鞄に仕舞うと恭子は雪人を見上げた。
「ねぇ、ちゃんと返事聞かせて。」
真っ直ぐに見つめられ雪人はますます頬を紅潮させる。大きく息を吸うと雪人はゆっくりと告げた。
「俺も、杉本の事が好きだ。俺と付き合ってほしい。」
窓から射しこむ夕陽が、頷いた恭子の天然の茶色い髪を透かす。頬が赤いのは夕陽のせいだけではないだろう。


                     END
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