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『魔王の遺言』

 魔王グラヴィオ様が、天界から勇者とやらに選ばれた人間によって倒された。統率者を失い、混乱する魔界を建て直すべく俺は奔走している。後追いしようとする騎士達を思いとどまらせた。蘇生の方法があるのではないかと考え、学者達に古文書の解読を急がせた。王よ、しばしの辛抱です。必ずや貴方を蘇らせます。そして勇者と人間共に復讐を果たし、地上を魔族の手に。誓いを新たに空の玉座を見つめていると、慌ただしい足音が響いた。
「将軍! 大変です!」
「何だ、騒々しい。」
振り返ると鎧をまとった兵士は息も絶え絶えに、驚くべきことを告げた。
「ゆ、勇者が、ディベイル将軍にお会いしたいと、グラヴィオ様の魔石を持って、城門に来ております。」
「勇者が俺に会いたいだと?」
あの日。王が自ら勇者との最終決戦の地に選んだ峡谷を、俺達は祈りを込めて城から見つめていた。一対一で戦いたいから誰もついて来るなとの厳命に、歯がゆい思いをしたのを覚えている。戦いが始まってから数刻後。魔界の空を裂くかのような閃光が走った。その瞬間、俺達は悟った。王は敗れたのだと。それから魔界の大地は不穏な鳴動を繰り返している。王を失い、魔界そのものが崩壊するのではないかと皆が不安がっている。俺が勇者に敗れなければと、自分の不甲斐なさを責め続けた。俺が守る砦を突破されたと報告した日、王は「今までよく戦ってくれた。後の事は心配するな。」と穏やかに笑ったのだ。王のそんな顔を見たのはあれが初めてだった。今にして思えば、王はこんな事になるのを予測していたのかもしれない。しかしならばなぜ、俺達の加勢を許さなかったのだろうか。勇者の風体を思い返す。やせっぽちでひ弱そうな人間の若い男だった。そうだ、あの見た目に惑わされたのだ。つくづく、自分の甘さが嫌になる。しかし、もう魔界に用など無いはずなのに、何をしに来たというのだ。忌々しい。
「勇者なぞが俺に何の用だ?」
「グラヴィオ様からの言伝があると言っていましたが……。」
「魔石を持っていると言ったな?」
「はい、確かにグラヴィオ様の剣に付いていた石だと思われます。」
あの石は魔界を統べる者の証。取り戻さなくてはと考えていたところだ。のこのこやってきたのなら好都合だ。
「いいだろう。通せ。」
ほどなくして兵士が勇者を引き連れて戻ってくる。相変わらずの貧相な風体に、なぜか穏やかな笑みを浮かべて俺を見つめてくる。何だ、気色悪い。
「勇者ジュドニスを連れてきました。」
「僕はもう勇者じゃないって。」
苦笑しながら首を振る勇者を一睨みし、兵士は一礼して去って行った。勇者は意味不明な笑みを浮かべたまま俺に視線を移す。
「久しぶりだね。ディベイル将軍。」
「何の用だ?」
ようやく表情を引き締めた奴は、王の魔石を取り出し驚くべきことを告げた。
「魔王グラヴィオの遺言を伝えにきたんだ。僕を魔界の王に据え、あなたと共に魔界を維持せよと。」
「はぁ!?」
何をふざけたことを言い出すのだ。王がそんなことを言うはずがない。だが奴は魔石を差し出しこう続けた。
「この石にあなたへの伝言が残されている。魔族の言葉は僕にはわからないけど、今言った事と同じような事が吹きこまれているはずだから、聞いてくれ。」
奴の手から魔石をひったくると石は赤く光を放ち、王の言葉が響く。
『ディベイル将軍。お前がこれを聞いている時、私は勇者に敗れた後だろう。そこでお前に最後の命令だ。魔界に王不在の期間があってはならない。私を倒した勇者を王に迎え、共に魔界を維持するのだ。魔界を頼む。』
「なぜお前を俺達の王になどと!」
王の言葉はまだ続いていたが、俺はたまらず魔石を勇者に投げつけた。難なく魔石を受け止めると奴は困ったように笑う。
「今の声は間違いなく魔王グラヴィオのものでしょう? 魔王は最期に言ったんだ。人間の世界に僕の居場所はもう無いだろうと。僕に魔王の座を継ぎ、将軍ディベイルと共に魔界を守ってくれと。僕を許せないのはもっともだけど、これは先代魔王の命令だ。上級魔族からの命令、つまりあなたは絶対に逆らえない。そうでしょう?」
確かに魔族の世において、力に基づく上下関係は絶対だ。上位の魔族からの命令には何があろうと逆らえない。今の声も魔力の気配も間違いなくグラヴィオ様のものだ。勇者が魔石に細工した形跡も無い。本当に、王がこいつを次期魔王にせよと命じているのだ。いったいどういうつもりなのだろう。魔界に王不在の期間があってはならないのは事実だ。グラヴィオ様が復活するまでの時間稼ぎ、ということだろうか。それなら、と勇者を睨みつける。
「いいだろう。今の魔界は王を失い不安定になっている。お前が王の座に就けば魔界の大地は安定する。お前は単なる人柱ってやつだ。魔界で唯一の人間、ちょうどいいだろう。」
「そうだね。」
のんきに笑って答えた奴は「うまい事言うなぁ」などと感心している。何だ、その余裕の態度は。むかつく。
「じゃあ、これからよろしく。ディベイル将軍。魔界の事をいろいろ教えてほしい。」
魔石を大事そうに握り奴は表情を引き締める。こいつに見据えられると不覚にも身震いがした。グラヴィオ様と一対一で戦い勝利した奴だ。グラヴィオ様は敗れ、こいつの力を認めた。仮に運が良かっただけだったとしても、その事実は揺るがない。力が全ての魔族の世、たとえ相手が人間であっても、その理には逆らえないらしい。
「勘違いするなよ。お前はただの繋ぎに過ぎない。」
俺の言葉に奴は楽しそうに笑いやがった。
「あなたはグラヴィオが言ってた通りの人だね。あ、人じゃないか。」
やっぱりこいつむかつく。

 グラヴィオ様の不可解な命令はすぐに魔界中に広まった。学者を始めとする非戦闘民は奴を王として受け入れるのに前向きだった。グラヴィオ様への忠誠はどこへ行ったのだ。魔界の維持が最優先という事か。合理主義な学者連中とは肌が合わない。逆に騎士や兵士、魔導士など戦闘職の者は奴に猛反発した。だが奴がじっと見据えると、怒りを飲み込まざるをえない圧倒的な力をみな感じたようだ。威圧するわけでもなくただ見つめているだけなのに、人間共の王国を一夜で壊滅させた歴戦の騎士達を瞬時に黙らせる。こんなひ弱な人間のどこにそんな力が秘められているのだろう。どうしてグラヴィオ様はこんな奴に敗れ、力を認めたのか。ある日、魔界を案内してやりながら奴の背を睨む。
「鋭い牙も角も頑丈な鱗や翼も持たないひ弱な人間が魔王とはな。何だったら、俺がお前を殺して次の魔王になってやる。」
俺の言葉に奴は振り返った。
「魔族も鍛錬して強くなるの? 上級の魔族に昇格したりするの?」
「……魔族は下級に生まれれば一生下級のままだ。」
「僕は先代魔王を倒したって事実、忘れた? だけどその気概は頼もしいな。」
笑顔で言いやがるからむかつく。
「そういえばさ、」
「何だ?」
「魔族ってみんな人間の言葉を喋れるの?」
「いや、一部の側近だけだ。」
「なら僕に魔族の言葉を教えてよ。意思の疎通ができないのは困るからね。」
そういえば、グラヴィオ様はなぜ人間の言葉など話せたのだろう。俺達にも人間の言葉を教えたのはなぜだ?
「そんな事は学者に頼め。あいつらはお前を受け入れるのに前向きだから、喜んで教えるだろう。」
これ以上付き合ってられるか。俺は忙しいんだ。城内の学者達がいる部屋へ奴を案内し溜め息をついた。「王自らお越しいただけるとは!」なんて感激の声が聞こえる。単純な連中だ。古文書の解読は進んでいるんだろうか。早くグラヴィオ様を復活させてあいつを殺してやる。それにしても、繋ぎの王が必要だとしてなぜ人間、しかも王を倒した奴をわざわざ指名したのだろう。グラヴィオ様が認める力を持つ者なら、誰でもいいのではないか。例えば俺では駄目なのか。それはなぜだ? 魔界でグラヴィオ様に次ぐ力を持つのは俺だ。「魔王の右腕」と称され、グラヴィオ様ほどで無いにしろ、俺が睨めば騎士隊長も大魔導士も震え上がるというのに。どうして俺を指名しなかったのだろう。俺には、繋ぎの間といえども王は務まらないという事か。
「グラヴィオ様、なぜ……!」
壁を殴りつけた拳が痛んだ。

 それから奴は短い期間で魔族の言葉を習得した。俺が人間の言葉を覚えるのも早い方だったと思うが、奴が魔族の言葉を覚えたのはそれ以上に早かった。そうして、部隊長を務める騎士や一兵卒の者、魔導士達にも分け隔てなく話しかけ、身体を気遣ったり働きを労ったりしている。そういえば、グラヴィオ様も下位の者達にも声をかけ気遣っていたな。グラヴィオ様の真似をしたところで、奴がグラヴィオ様ほどの王になれるとは思えん。だが、奴に反発していた騎士達が次第に心を開いていく。自分から奴に挨拶したりするようになった。懐柔されやがって。確かに、奴が来てから大地の不穏な鳴動は収まっている。学者連中は「彼が真の魔王である証だ」などと言った。ふざけるな。人間なんぞに魔王が務まるわけないだろう。そう言うと学者連中は「間もなく覚醒が始まるだろう」と意味が解らん事を言ってきた。奴は魔界で支持を集め始めている。忌々しい。グラヴィオ様への忠誠はどうしたのだ。先の戦いで奴に殺された同胞達の事を忘れたか。だが、奴に見据えられると憤りが収まってしまう。畏怖とは違う何かが奴の目にはあった。抑えつけるのではない、あくまでも穏やかに、それでいて圧倒的な力を示してみせる。意思に反して消えて行く怒りに苛立っていたある日、奴はグラヴィオ様がやっていた定例会議を行うから集まってくれと言ってきた。会議室に集まった部隊長達や学者連中の前で、奴は軍事や内政もグラヴィオ様のやり方をそのまま引き継ぐと言った。人間のやり方なぞ持ち込まれてはたまらんからな。その判断は評価してやるとしよう。奴は表情を引き締め、一同を見回した。
「まだ僕を受け入れられない者はいるだろう。その気持ちはもっともだ。だけど魔王も不老不死ではない。詳しい事は学者から解説してもらうとして、僕が魔王グラヴィオを倒したのは魔界にとって必要な事だったんだ。決して人間を守る為じゃない。魔王の死期が近づいていると知った天界が本格的に動き出す前に、王位継承を行う必要があったんだ。」
会議室に驚きと困惑が満ちる。人間を守る為じゃないとはどういう事だ。なぜ人間が王位継承を行う必要がある? 遥か昔に魔族を地底へ封印しやがった天界の奴らが、人間の中から勇者を選んで王を討たせたのではないのか? ざわつき始めた会議室を見渡し奴が話を続けようとしたところへ、慌ただしく扉が開け放たれた。
「王! 大変です! 天界の軍勢が魔界のゲートを突破し城へ向かっております!」
何だと!? 学者達が怯えた顔で奴を見る。騎士や魔導士が指示を仰ごうと奴を見る。奴に反発する騎士達が奴を睨む。やはりこいつが天界の奴らを手引きしたのではないのか!? 一斉に視線を浴びた奴は、この場の誰よりも険しい顔で勢いよく立ち上がった。
「各部隊長は戦えない者達の避難と保護を優先! 完了次第出陣してくれ!」
「お前はどうするんだ?」
「一足先に奴らをぶっ飛ばしてくる!」
そう叫ぶと奴は剣を手に一人で飛び出していった。
「おいっ!」
人間が天界人の軍勢相手に戦うだと!? 騎士達が学者達を導いて会議室を飛び出していく。号令を聞いた下級兵士が続々と集まり、俺も慌てて部隊に集合をかけた。学者や城仕えの者達を城の最深部へ避難させると、部隊を率いて城を飛び出す。城の遥か先、地上と魔界を繋ぐゲートの前で奴が天界軍と戦っていた。天界の奴らは、人間が魔界にいる上に自分達へ刃を向けた事に困惑しているようだ。天界軍の統率が乱れているとはいえ、奴は立ちふさがる敵を一人で次々と斬り伏せていく。
「突撃!」
号令をかけ剣を抜く。俺達が現れた事で天界軍は戦意を取り戻し向かってくる。他の部隊も続々と戦闘に加わっていく。ここは俺達のテリトリーだ。勝手な真似をさせるか。振り下ろされた剣を受け止め弾き返す。戦いながら俺は奴を視界の端に捉えていた。戦場の真ん中からから少しずつ離れる。敵勢力を分散させる目的もあったが、何よりも奴を見張る為だ。いつ奴が俺達の方へ刃を向けてくるかわからない。グラヴィオ様がいなくなって天界軍が攻めてくる、タイミングが良すぎるじゃないか。奴が手引きしたに違いない。そんな事を考えながら戦っていたせいだろう、背後に迫る敵に気付けなかった。
「将軍!!」
しまった、と思った瞬間、悲痛な叫びが聞こえ誰かに突き飛ばされた。地面を転がりながら見上げると、敵の剣が奴の身体を貫いていた。敵が剣を抜き奴の身体が崩れ落ちる。倒れ伏した奴を不思議そうに一瞥し、敵は戦場の真ん中へ向かっていく。
「おいっ!」
思わず奴に駆け寄った。荒い息をしながら奴は俺を見上げる。
「何で俺を庇った!?」
「僕には、みんなを守る義務が、ある。」
「馬鹿野郎! お前に守られなくてもあんな奴ら敵じゃねぇ!」
「頼もしいな。」
「俺がお前を殺して魔王を引き継ぐんだ、天界軍なんぞにやられてんじゃねぇよ。」
「そうだったね。」
弱々しく笑う奴に俺は声を荒げた。
「今はお前に死なれちゃ困るんだ! おい、治癒術者はいるか!?」
奴の回復を、と考え立ち上がろうとしたが、奴はゆっくりと身体を起こし俺を制した。
「大丈夫、これがあれば僕は死なない。」
そういって懐から王の魔石を取り出した。赤い光が渦を巻いて光っている。こんな状態の魔石は見た事がない。奴は震える手で魔石を掲げ、苦し気な息をしながら呟いた。
「時は満ちた。今こそ、古の盟約に基づき、真の姿を、取り戻し、王位継承の儀を、完遂する。」
魔石から放たれた赤い光の渦が奴の身体を包んで浮かび上がった。
「お、おい、何事だ?」
頭上に浮かんだ奴の身体を光の渦が貫いた。激しい苦悶の声を上げる奴を困惑しながら見つめる。それは、人間の悲鳴というより獣の咆哮に似ていた。
「将軍、これを!」
背後から聞こえた学者の声に振り返る。結界を張る為の石を奴に向けて使った学者は安堵と感嘆の声を上げた。
「これで大丈夫。あぁ、いよいよ覚醒が始まりますか!」
「何でお前がここにいる! 戦えない奴は引っ込んでろと言っただろう!」
「しかし、魔王覚醒なんて数千年に一度の事です。この目で見たいではないですか! それに覚醒を天界軍に邪魔されるわけにはいきませんから。」
「何の話だ?」
「ご存じないのも無理はありません。解読が完了した古文書に記されていたのです。代々の魔王は元人間、正確に言えば人間の中に隠された上級魔族です。」
学者が興奮の眼差しで頭上に浮かんだ奴を見上げる。赤い光の中、奴が身体を曲げ苦悶の表情を浮かべている。奴の柔い皮膚が内側から盛り上がり、裂けた。鮮血が散る度に奴を包む赤い光が濃くなっていく。裂けた皮膚の下から、俺と同じような黒く頑丈な皮膚が現れ、四肢も人間のものより数倍太くなった。頭には角が生え、裂けた背から血飛沫をまといながら二対の黒い羽が現れた。その姿はグラヴィオ様と似ている。奴の苦し気な咆哮が響く。それはもう人間の声ではなかった。
「おぉ、新王の誕生に立ち会えるとは何たる幸運、何たる名誉!」
「おい、奴は大丈夫なのか?」
興奮する学者に問いかけると、学者は目を輝かせたまま話を続けた。
「えぇ、先ほど王も仰いましたが、魔王とて不老不死ではありません。王の寿命が尽きる頃、次の魔王が人間界に生まれます。魔王の寿命が尽きるその時まで人間として生き、時が来れば先代を倒して魔王の座を引き継ぐのです。王の魔石が人間の血肉を吸い、魔族としての姿を取り戻す事で王位継承は完了します。」
「グラヴィオ様は知っていたのか。」
「はい。王位継承が行われないままに王の寿命が尽きてしまえば、魔界は消滅してしまいますから。寿命が近い事を察した王は、魔王討伐の大義名分を与える為に人間界へ侵攻するのです。人間界に生まれた次期魔王を探し出し、天界からの神託を装って勇者に指名するのも魔王自身です。」
「じゃあ、グラヴィオ様も元は人間だったのか?」
「その通りです。王の魔石が赤いのは、器だった人間の血肉を吸収した為。」
確かにあの赤は人間の血の色だ。奴へ視線を移すと、赤い光が魔石に収束していくところだった。苦悶の咆哮はもう聞こえない。そしてひ弱な人間の姿はそこには無かった。ゆっくりと黒い四肢と羽を伸ばし、その動きを確かめているようだった。
「どうしてそんなややこしい事を。」
「天界人は失敗作と見做した魔族をどうしても消し去りたかったようです。そこで初代魔王は、魔族を守る為に魔界を作りました。魔王が存在する限り魔界は存続します。天界に知られずに王位継承を行う為に、初代魔王が密かに作った仕組みなのです。天界や人間共から見れば、魔王は不老不死の存在に見える事でしょう。」
赤い光が完全に収束した。黒い鱗板に覆われた皮膚、黄金色に煌めく瞳、一対の角、背には二対の黒く艶めく羽。そこにいるのは紛れもなく魔族だった。本当にあれは奴なのか? 他の誰かと入れ替わったのではないのか?
「心配をかけたね、将軍。」
穏やかに笑うその表情は間違いなく奴のものだった。思わず安堵しそうになり慌てて顔を背ける。
「ふん、誰がお前の心配なぞするか。」
奴は楽しそうに笑うと学者へ視線を移した。
「みんなのおかげで無事に覚醒できた。ありがとう。」
「礼には及びません、王よ。」
恭しく一礼すると学者は奴を見つめた。
「ジュドニス王、最初の仕事は卑劣にも奇襲を仕掛けてきた天界軍の殲滅です。我々をお守り下さい。」
「もちろんだ。行こう、ディベイル将軍。」
「お前に言われるまでもない、行くぜ!」

 人間として生きてきた者が、ある日突然「魔王を倒せ」と言われた挙句、次期魔王に指名される。なんて数奇で過酷な運命なのだろう。そんな過酷な運命を生き抜いたグラヴィオ様の遺言、それは『生きろ』という事なのだ。俺達は生きる。このいけ好かない新たな王と共に。


END


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