宝物庫へ翠玉館玄関へ

『祭囃子に隠した鼓動』



初めて見る浴衣姿

視線だけで「似合う?」と聞いてくる君に

そっぽ向きながら頷く

そんな俺の反応だけど

君は嬉しそうに微笑んだから

俺はますます照れ臭くて

少し先を歩く。


履き慣れない下駄で歩く君

危なっかしくて仕方ない

無言で手を差し出すと

君は嬉しそうに頬を染めて俺の手を握る。


手を繋いだのは

君が転ばないようにと

人混みではぐれないように

それだけ、のはずなのに

心臓がうるさいくらいにどきどき鳴っている

もし君にこの音を聞かれたら

祭りの太鼓の音だってごまかすつもり。


祭囃子に隠した鼓動が

夏の夜に響き渡る

いつまでも。