短編の間へ/翠玉館玄関へ
『夢幻の宴』
戦場から遠征軍が帰還した。長きに渡る魔王軍との戦に勝利し凱旋する戦士達を、民衆の歓声が包む。戦士達は力強い笑みで民衆の歓声に応え手を振った。王の待つ城へ辿り着くと、王は労いの言葉と共に祝勝会の準備を命じた。華やかな宴は夜通し続く。互いの功績を称え笑顔で杯を交わす戦士達、「儂の代で魔王討伐が成されるとは」と上機嫌の王、王宮楽団による演奏、吟遊詩人は戦士の英雄譚を唄い、民衆は英雄を一目見たいと城へ押し寄せる。遠征軍に同行した神官は、変わらない故国の平和な姿に涙した。独り静かに泣いている神官に気付いた人々が、貴方も英雄の一員だと宴の輪へ誘う。戦の勝利を祈願し、怪我人の手当や慣れない武具の手入れにも奔走した、戦場での過酷な日々を思い返し胸が詰まった。王宮仕えの一流料理人達による豪華な料理が次々と運ばれてくる。王家の貯蔵庫から、高級な酒が惜しみなく振るわれる。魔王の脅威は去った。永遠と思われた闇の世はようやく終わりを告げるのだ。人々は身分も肩書きも超え肩を組んで歌い踊る。王宮の使用人が神官のグラスへ酒を注ぎに来る。グラスをあおり神官は咽び泣く。
「あぁ、これが現実であったなら。」
同時に王も戦士も王宮楽団も吟遊詩人も民衆も、全ての人は無惨な骸に戻る。美しい城も城下町も、破壊の限りを尽くされた廃墟になった。宴の喧騒は消え去り、耳を破るような静寂が訪れた。神官の嗚咽だけが廃墟と化した王国に響く。魔王討伐の遠征軍は神官を残し全滅、ただ一人生還した神官は魔王軍によって滅ぼされた王国に愕然となった。魔王軍に逆らえば同じ目に遭うぞという、周辺諸国への見せしめか。徹底的に破壊された王国に、神官は泣き崩れた。戦の勝利と戦士達と王国の人々の無事を祈り加護するのが自分の役目であったのにと、神官は自分の無力さを責め続ける。
「この力を、こんな風に使う事になるなんて。」
ネクロマンサーでもある神官は、遠征軍が自分を残して全滅した事を悟ると、戦場から戦士達の亡骸を操り王国へ帰還した。せめて、瘴気に満ちた魔王城周辺ではなく、故国の地に眠らせてあげたいと。戦士達の亡骸を一人残らず集め、彼らを率いて故国へ歩き続けた。死者の行軍に魔王軍が見向きもしなかったのはせめてもの救いと言えるだろうか。長い道のりをやっとの思いで帰還した末に、滅ぼされていた王国に絶望する。ひとしきり泣いた後、王や民衆の亡骸を操り、勝利の宴を開いた。それは弔いか贖罪か、神官自身の慰めか。当人にも解らぬまま、毎夜終わる事のない夢幻の宴を繰り返す。
END