<解答編>
夫は急に切れ切れになった妻の言葉とその内容に仰天し即座に警察へ通報、仕事を切り上げてすぐさま帰宅した。夫の通報を受けて駆けつけた警察官は、この状況で一体どうやって助けを求めたのかと彼女に聞いた。彼女は携帯電話の送話口を指で押さえて塞ぐと、自分が伝えたい言葉だけを夫に聞こえるように指を放し、強盗に指の動きを見られないよう気をつけながら喋っていたという。強盗が見張っていた電話の内容は、
「そうだ、あなたタスポ忘れて行ったでしょ。届けてあげようか? え? あぁ、それもそうね。無いと不便かと思ったんだけど。傘は持ったかしら? 夜は豪雨ですって。そう、それならいいの。あと手紙投函するの忘れないでね。家に帰るのは何時くらい? そう、わかったわ。お願いね。」
というものだが、彼女は夫に次の部分(太い文字)だけを聞かせたのである。
「そうだ、
あなたタスポ忘れて行ったでしょ。届
けてあげようか? え? あぁ、それもそうね。
無いと
不便かと思ったんだけど。傘は
持ったかしら? 夜は
豪雨ですって。そう、それならいいの。あと手紙
投函するの忘れないでね。
家に帰るのは何時くらい? そう、わかったわ。
お願いね。」
電話の向こうの夫には、
「あなた助……けて……ナイ……フ……持った……強……盗……家に……お願い。」
と聞こえたのだった。
帰宅した夫は妻の無事に安堵し、駆けつけた警察官と共に機転を利かせた彼女の冷静さに感心したのだった。
終幕
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