『Introduction』


「これ以上の争いは、互いにとって不毛であろう。」
「うむ。このままでは民は疲弊する一方。戦の意義は既に失われている。」
吸血鬼の王は遠くを見る目つきで語り始める。
「我々の戦の始まりは、それぞれ生命を守るためであった。我々は飢えを凌ぐため人間を襲い、人間は我々を邪悪な存在とみなし戦ってきた。」
人間の王は重々しく頷いた。
「そうだ。そしてその戦いは個々のものであったが、やがて種族全体での戦争へと変化していった。今や吸血鬼と人間の関係は、互いに互いを憎み殲滅させるべき対象となっている。力で勝る吸血鬼と、数で押す私達。戦いは終わる事なく長い時が過ぎ、戦に疑問の声も上がり始めた。『襲ってこない吸血鬼までも殺す意味はあるのか?』と。」
「我々も同様だ。『生命維持に必要のない血まで流す必要はない』と。」
「戦いが日常となってしまった世界に、民はみな疲れている。」
「では、和睦を結び共存の道を探るという事で異存はないな。」
「無論だ。同じ大地に生命を受けた者として、無益な殺生も諍いも無くしていかねばなるまい。」
吸血鬼の王と人間の王は会談し、戦いの終わりを世界に宣言した。吸血鬼も人間もルーツを同じくする生命として尊重しあい、無益な殺生も争いも止め共存すべしと定めた。

時は流れ、人間の王が何度か代わり、当時の吸血鬼の王も長い寿命を終える頃。世界には互いに共存を目指す者、未だに忌避しあう者、無関心な者、様々な想いが交錯し、戦乱の時代から混沌の時代になろうとしていた。




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