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掌編推理劇場『SOSの発し方』


<出題偏>

 ある日、一軒の家に一人の強盗が押し入った。家には若い女性が一人で他には誰もいなかった。押し入った男は女性にナイフを突きつけ、自分は近くのコンビニを襲って逃走中だから警官が遠ざかるまで匿えと脅した。おとなしくしていれば何もしないという言葉に従い、女性は震えながらも静かに窓から離れたソファに座った。男が苛立った様子で窓から秘かに外を伺っていると、突然女性の携帯電話が鳴り響いた。彼女の夫からである。出ないと不審がられるという女性の言葉に、男は余計な事は言うなよと念を押し渋々電話に出る事を許した。女性のすぐ傍に腰を下ろしナイフを突きつけながら、男は彼女の通話を監視する。受話音量は小さく設定されているようで、夫の声は男には聞こえてこない。
「はい。うん、何も変わった事はないわ。え? スーツケース? 青いやつね。分かったわ、出しておけばいいのね。」
やや俯き彼女はゆっくり話している。
「そうだ、あなたタスポ忘れて行ったでしょ。届けてあげようか? え? あぁ、それもそうね。無いと不便かと思ったんだけど。傘は持ったかしら? 夜は豪雨ですって。そう、それならいいの。あと手紙投函するの忘れないでね。家に帰るのは何時くらい? そう、わかったわ。お願いね。」
電話を切ると男の様子を伺いながら彼女はテーブルの上に携帯を置いた。不審な所はないと見て男は再び外の様子を伺い始めた。
が、数分後。数人の警察官が現れ男は逮捕された。男は驚愕の表情で叫ぶ。
「お前、どうやって警察呼びやがったんだ!」

男がすぐ傍で見張っていて、話した以外の事は口にしておらず、メールなどの他の操作も一切出来なかった。また夫からの電話以外に外へ助けを求める機会も無かった。
一体彼女はどうやって夫に強盗の事を伝え助けを求めたのか?


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