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13


剣を弾かれ体勢を崩したグラド目掛けてロレウスは青白く発光する炎の塊を放った。ロレウスの手を離れた瞬間、炎はグラドの右腕を捕らえた。
「ぐあぁあぁぁ!!」
剣がグラドの手から落ちる。炎はグラドの右腕を飲み込むように焼き尽くす。グラドが絶叫を上げながら右腕を振るった瞬間、炎に包まれた腕はグラドの肩からちぎれ落ちた。だが片腕を失ってもなお、苦悶の表情の上にさらに強い敵意を浮かべながらグラドは炎を放つ。間断ないグラドの攻撃をロレウスは一つ一つかわしていく。余裕の表情のロレウスにグラドは冷静さを欠いていく。
「お前を倒して長に近付く! 俺の力を連中に認めさせてやるんだ!」
その言葉にロレウスは小さく笑う。
「お前の力は長達に認められていなかったのか。その程度で私を倒そうとは。」
怒りに燃えるグラドの顔を眺めるとロレウスは剣に手をかざし、その手に炎を生じさせる。
「お前に付き合っている暇はない。悪いが消えてもらおう。」
ロレウスの細身の剣が青白い炎に包まれた。グラドが渾身の力を込め放った炎はロレウスの剣に飲み込まれ消滅する。歴然たる力の差がそこにはあった。だが実力差を目の当たりにしてもなおグラドは向かってくる。そんなグラドに哀れみの表情さえ浮かべながらロレウスは剣を振るう。右腕を失い痛みと怒りに冷静さを無くしたグラドはやみくもに突進する。赤く燃え盛る炎を左手に発し飛びかかるグラドの左肩を、ロレウスの剣が貫いた。低く呻き声を上げグラドは倒れ込む。苦悶の表情に憎悪を浮かべながら、溢れる血をものともせず立ち上がりなおも戦おうとするグラド。だが肩を貫かれた左手は上がらず、手のひらに生じた炎はグラドの手を離れる前に弱々しく消える。それが最後の力だったのか、悔しげに自分の左手を睨むとグラドは支えの糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。それでも顔を上げロレウスを睨むグラドに、ロレウスはゆっくりと近付く。
「それほどの気概を持っていながら、何故一族の真の使命を果たさないのだ。」
「長の言う事は、絶対。それが一族の、掟じゃねぇか……。」
ロレウスは剣を構え直し纏わせた炎を収束させると、苦しげな息をするグラドに切っ先を向ける。
「長が過ったならそれを正すのも一族の役目。何故創世神は一人ではないのか。それは長が絶対の完璧な存在ではないからだ。」
ロレウスの言葉にグラドは目を見開き叫ぶ。
「ならこの力の差は何だ! 眠ってるだけでもあんなに強い力を発してるっていうのに、そんな奴が絶対じゃないだと!?」
頷くロレウスにグラドは身体を起こし、膝をついたまま詰め寄る。
「こんなちっぽけな力しかない俺に、あんな強い奴ら止められるわけがねぇ! 従って認めてもらうしかねぇんだ、強ぇあんたにはわかんねぇだろうけどな!」
長を取り巻く、力ある側近達の優越意識が一族の真の姿を歪めさせているのだとロレウスは感じた。その歪みは、長に従おうとする者にさえも苦悩を与えている。ヴァルジールがいた頃はここまで歪んではいなかっただろう。過った長を制する事の出来る者がいなくなり、一族の中に本来無かった力による支配関係が生まれているようだった。それは一族の本来の役割を忘れさせている。長や側近達は何を考えているのか。多くの者がこの大地に留まり、「我らの大地」とうそぶいている。このままではいけない。ここでグラドを倒す事は何の解決にもならない。うなだれるグラドの姿にとどめを刺そうと構えていた剣を下ろした時、必死なレイシェルの声がロレウスの頭の中に響いた。
――ロレウス、避けて!――


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