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炎の鎖に捕らえられたレイシェルはそっとロレウスを見つめる。足手まといになってはならない、そんな想いに駆られこの状況を打開すべく思考を巡らせる。ロレウスもレイシェルを助ける方法を考えながらその目を見つめ返した。だがダスバルはそれを遮るようにレイシェルの前に立ちはだかる。
「おっと。精神感応での作戦会議はさせないぜ。」
レイシェルの目を見据えダスバルはすぅっと目を細める。
「お前は自分を散々迫害し苦しめた人間達が憎いだろう? 滅ぼしたいと思わないか?」
ロレウスを指差しダスバルは畳み掛けるように言葉を続ける。
「あいつの言う事は綺麗事に過ぎない。ずっと魔界で生きてきた奴にお前の苦しみなど理解出来るはずがないのだから。俺はお前のような者達に人間が何をしてきたか知っている。俺と組めば人間などあっという間に滅ぼしてやるぞ。誰もお前を忌避する者などいない、穏やかで美しい世界を作るんだ。」
目を背けようとするレイシェルの顎を掴み、ダスバルはレイシェルの目を覗き込む。
「思い出せ、人間達がお前に何をしてきたか。お前が身を潜めて生きなくてもいい世界を俺なら作れる。」
「やめて、私は……。」
「レイシェル!」
「近付かないでもらおうか。」
レイシェルを捕らえた炎の鎖を狭めロレウスを牽制すると、苦悩に顔を歪めるレイシェルにダスバルは尚も詰め寄る。
「人間は醜い。お前は身を持って感じているはずだ。お前は人間を許せるのか? 命の価値を理解出来ない連中に慈しみを向ける必要はない。そう思わないか?」
ダスバルの言葉に抗っていたレイシェルの瞳から力が抜けていく。
「さぁ、お前から奴に頼むんだ。俺に協力し人間を滅ぼしてくれとね。お前が頼めば奴は動く。」
「レイシェル! 惑わされるな!」
「ダスバル……。本当に、人間を滅ぼして、くれるの?」
光を失ったレイシェルの目に満足げに笑うとダスバルは頷いた。
「もちろん。」
レイシェルは安堵したように微笑むとゆっくりとロレウスに視線を移した。
「ロレウス、ダスバルに協力して。私の為に、人間を滅ぼして……。」
レイシェルの光の消えた瞳と力無い口調にロレウスは唇を噛む。レイシェルを人質に取られ動けなかった自分の不甲斐なさを強く責めながら、レイシェルの目を見つめ返した。意志を奪われたかのような、空虚な瞳。細く震えた声。レイシェルは何を思い自分と共にいたのか。思考を巡らせ迷いを吹っ切るようにロレウスは頷いた。
「わかった、いいだろう。お前に手を貸そう。魔界の者達の居場所は本当に保証してくれるのだろうな?」
「約束しよう。彼らは我らの同胞だ。お前こそ本当に俺に手を貸してくれるんだろうな?」
「二言は無い。」
「いいだろう。では長のいる場所へ向かおうか。」
歩き出したダスバルの肩をロレウスは険しい顔で掴む。
「その前にレイシェルを解放しろ。」
「それはまだ出来ないな。長と側近達を倒すまでは解放するわけにいかない。」
「貴様、私を信用しないのか。」
「お前こそ俺を本当に信用しているのかわからないからな。それに、状況はよく把握しておいた方がいいぞ。彼女はいま誰の手にあるか、そして彼女自身が今誰を信頼しているのかをな。」
炎の鎖に捕らわれたまま、レイシェルは虚ろな瞳でダスバルに付き従うように立っていた。
「レイシェル……。」


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