「『過酷な放浪の末、神々は安定した大地を見つけ、荒廃していた大地を蘇らせるべく奇跡を施した。大地には水が満ち植物が生い茂った。水中と陸上にありとあらゆる生物が生み出された。やがて神々は自らの姿に似せて人間を創造し大地を更なる安定と繁栄へと導いた。』……やはりな。真実は捻じ曲げられている。」
ロレウスの言葉にレイシェルは首を傾げる。
「この神話は偽りなのですか?」
頷いてロレウスは絵画の中の黒く描かれた人物を指差す。
「『混沌の闇より現れし魔王。神に取って代わらんとして配下を率い大地を侵攻。神々は大地と人間を守る為これと戦う。後に「魔大戦」と呼ばれるこの戦いは数十年にも及んで続いた。』魔王というのは私の父の事だ。父は神の一族の一人、闇より現れた魔王などではない。配下というのは父に付いた一族の同胞と、魔力を持って生まれた人間の事だ。一族の多くは魔力を持った人間を忌むべき命として滅ぼそうとした。父達はそれを阻止すべく戦ったのだ。命は全て同じく慈しまれるべきだと。地上にはこんな偽りが伝わっているのか。」
レイシェルはロレウスを見上げる。
「ただの伝説、という人も中にはいますけど、殆どの人がこの神話を信じています。」
「そうか。勝者は真実すら作り変えられるのだな。」
忌々しげに呟くとロレウスはレイシェルを見つめる。
「もう、真実を伝えるには手遅れだろうか。」
「そうかもしれません。私のように人にあらざる力を持った者が、追われたり捕らえられたりするのを何度も見てきました。人の意識はそうそう変わるものではないでしょうね。」
「未だに多くの者が苦しめられているのだな。やはり神を討っただけでは地上へ還る事は出来ないか。私がもっと早く来ていれば……。」
ロレウスは悔しげに眉根を寄せると絵画に視線を戻す。この戦いの後の神の動向を探らなくてはならない。
「『壮絶な戦いの末、神は魔王を討ち滅ぼし魔界を封印した。その後、神は天界へと帰り力を取り戻すべく眠りに付いた。』違うな。一族に帰る場所など無い。一族は星間を旅して大地を育み、命をそこへ生み出すのが役目。役目が終わる事など無い。力尽きればその大地で眠るのが普通だ。」
「では、ロレウスのお父様を討った一族の長はこの世界のどこかにいるのですか?」
「その通り。力を取り戻すべくこの世界のどこかで眠っているはずだ。」
神話を語った絵画はそこで終わっていた。レイシェルは険しい顔をしたロレウスを見つめる。
「長はどこで眠っているのでしょう?」
「これではわからないな。だが恐らく長が眠る場所は結界で人間が立ち入れないようになっているはずだ。聖地とでも呼ばれる地になっているだろう。」
「そうですね。ここは一般に解放されていますが、世界各地に人が立ち入れない場所があります。立ち入りを禁じているのではなく、何らかの力が作用して立ち入る事が出来ないようです。神話にゆかりのある地域にそういう場所が多いようです。」
「そこをしらみつぶしに探して行くしかないか。……簡単にはいかないようだが。」
ロレウスは背後に殺気を帯びた気配を感じていた。この殺気は、ロレウスの正体を察している証。ロレウスの幻視魔法を見破れる者がいる。それは魔力を持った者に他ならない。前を向いたままロレウスは殺気の持ち主へと声を掛ける。
「人間の神官がそんな殺気を放っていてはまずいのではないか?」
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